『スキのチカラ、想いの方向性』 from かなんち様

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 全ては、『島』から。
 
 
 全ての敵を倒したデジタルワールドに光が差し、島が生き返り、そして空と海と陸が出来て。
 
 元の平和に戻った。
 
 
 
 全てが再生されていく。
 
 いつかはヴァンデモンやピエモンが復活する事を聞かされたけれど、それは近い未来ではないだろうから。
 あまり深く考えず、それぞれが「再生」を喜びのものとした。
 
 
「終わったんだな・・・」
「ああ」
「長かったようで、本当に長かったわよね」
「短く感じているヤツなんているのかな?」
 
 
 それぞれが長かった戦いを心の内で締め括る。
 
「・・・」
 
 気のせいか先ほどから沈黙を守っている太一にいち早く気づいたのは、その中のたった二人。
 
「太一さん、どうかしたんですか?」
 
 始めは光子郎の言葉。
 それに反応したのはその太一を見ていたヤマトと当の太一。
 
 太一は光子郎の言葉の意味を一瞬考えているようだった。
 その表情は気の抜けた今にも眠りに陥りそうなもののソレだった。
「・・・ああ。終わったんだなと思ってさ・・」
 けれどソレは一瞬のことで、その言葉が発せられる直前には消えていた。
 
「・・そうですね」
 気のせいだったんだろうか?否、違うと悟った光子郎は、けれどその指摘を敢えてせずに同意の言葉を返したのだった。
「・・・」
 そしてその太一に気づいたヤマトも黙ったまま、何も言おうとはしなかった。
 
 当の本人が、それを表示しない限り。
 指摘するのは躊躇われた、から。
 
 始まりの町に着いた時も平気な顔をして、皆を安心させていた。
 きっと妹にも心配をかけたくなかったから。
 そんな彼に気づいていたもう一人の人物が、突然自分を呼び出した理由。
 
「多分ヤマトさんなら、太一さんも気を許すんじゃないかと思って」
 彼の手当てをしてくれ、と。
 そう言って手渡された十字のマークの入った箱に眼を落とし、それから彼に視線を戻した。
 自慢じゃないが彼がどのくらいの怪我をしているのか、知らない。  
「俺なんかより、お前の方が信頼されていると思ってたんだけどな・・・」
「僕は確かに信頼されているとは思いますけど、同じ位置に立っているワケではありませんから」
 そんなセリフを口にした光子郎の表情はどことなく寂しげで。
 けれど何と返したらいいのかもわからない。
 
 そう。
 光子郎とヤマトの立っている位置は違うから。
 同じ信頼でも違うもの。
 
 ヤマトは黙って暫く光子郎を眺めていたが、光子郎の頼みを受け入れることにした。
 もとより気になっていたことだから。
 
「分かった」
「宜しくお願いします」
 
 そして、これは光子郎にも譲れない位置だから。
 これは自分の役目なのだと。
 ヤマトは光子郎を残しその場を後にした。
 
 
 
 
 
「た・・いー?」
 町に戻って来てみれば、タケルやヒカリ達と居た彼が立ち上がり、離れていくトコロだった。
「すぐ戻ってくるから」
 そう言って仲間の輪から離れ始めた太一をヤマトが追う。
 幸い、アグモンもガブモンもタケルとヒカリの元に残っている。
 
 暫く歩くと案の定、太一は頼りない足取りで傍にあった木の幹に身体を預けてそのまましゃがみ込みそうになった。
 
「・・太一」
 大丈夫か?
 ヤマトがそう声をかけるよりも早く太一が振り返る。
「よお・・・ヤマト」
 どうしたんだ?
 
 そして太一が後の言葉を発するよりも早くヤマトに肩を貸され、沈黙した。
 黙って見つめていると、ヤマトの視線が返って来た。
 
「ほら、皆に心配かけたくないんだろう?」
 
 そういうヤマトの表情に太一が淡く微笑みを返した。
「ああ、さんきゅ・・」
「!?」
 
 何気ない気遣いが嬉しくて、微笑んだだけなのに。
 ヤマトの予想外の反応は太一を驚かせた。
 
 それは真っ赤な顔を見せただけのヤマト。
 
 ずっと一緒に冒険をして来て、少しだけヤマトの事が分かった気がした。
 
 
 照れ屋で、素直に言葉に出せないトコロとか。
 弟を大事に想っているトコロとか。
 寂しがりやなトコロとか。
 
 ほんのちょっとだと思うけれど、それでもそのほんのちょっとが嬉しいと思う。
 
「お前っていーヤツだなぁ・・」
「はあ?何だよ、いきなり」
 傷を診るべく、適当な場所にたどり着いて、開口一番太一が口にしたのはそんな言葉だった。
 別に肩を貸されなくても、普通には歩けたのだけれど、有無を言わせない雰囲気のヤマトに、それはいえなくて。
 その場所まで結局ヤマトに担がれたまま来て、解放された。
 ヤマトは「いきなり、何を言い出すんだ、こいつは?頭でも打ってたのか?」と思うような表情で見返せば、満面の笑みに出会う。
 そして、それはヤマトの思考を鈍らせるのには充分な攻撃技だった。
 
「そう思ったから言っただけだよ」
 
 凶器(ヤマトにしてみれば)の笑みを持ってそんな言葉をさらりと言えるのだから、とても叶わない。
 
 自分にはない、素直さ。
 自分にはない。全て。
 
 その全てがあるから、彼から目を離せない。
 
 太一の魅力所以はつまり、そこで。
 太一だから、好きになったんだと、思う。
 太一じゃなきゃ、好きにならなかったとも思う。
 
 ヤマトは今更ながら自分が「太一」という対象しか興味がない事に気づかされ、恥ずかしさにどうしていいのか分からなくなる。
 けれど相手はこんな自分の想いなんて知らないのだから。
 だから、今まで避けて来た。 
 
「・・・・ほら、傷見せろよ」
 
 とりあえずは、怪我を診ようとヤマトがその場に座り込み、太一を促す。
 そしてその表情の意味を掴めずに太一が首を傾げる。
 
「?ヤマト、何怒ってんだよ?」
「怒ってない」
「じゃなんでヘンな顔してんだよ?」
 
 ヘンな顔。
 
 他に表現方法が思いつかなかったのだろうか?太一はそんな言葉を口にしてから「しまった!」という顔をしてみせる。
「傷見せろって言っているだろっ!」
 今度こそ怒っているにふさわしい表情で凄まれて、太一はそれ以上何を言っても無駄だと思ったのだろう。
 上着を脱いでヤマトの前に座った。
「・・・」
 
 本当は。
 
 胸の鼓動がうるさくて。
 太一の言っている事一つ一つ反応していた訳じゃない。
 上着を脱いだ太一の素肌は意外に白くて、柔らかそうで。
 手当てをする間も、あまり白い部分を直視しないようにして。
 
 それでも。
 必要以上に触れたいと思った「想い」を後になっても鮮明に思い出せるに違いなかった。
 
 自分が駆けつけた時、地に伏し、倒れていた彼。
 抱き起こしてみれば、ぼろぼろの身体で。
 
 こんなになるまで、耐えて、待っていて。
 信じてくれていた。
 
 そんな想いをこれからもずっと抱えていく。
 
 それともいずれ忘れてしまうもの、だろうか?
 
 
 
 
 手当てを終えると肌に添った白い包帯が痛々しさを倍増させて。
 それはヤマトの胸を貫く刃になる。
 
「さんきゅ」
「まったく・・そんなになるまで我慢するなよ」
「俺、我慢だけは得意だから」
 その言葉は明るくても、受け取る方は明るくなれない。
 
 そうじゃないだろう?
 
 我慢するのは辛いはずだ。
 なんでも一人で抱え込んで。
 全て一人で。
 
 あの時の太一を思い出すと痛むのはヤマトの胸。
 何故もっと早く駆けつけられなかったんだろう。
 何故一人で戦っていたんだろう。
 こいつは。
 
 いつもそうだ。
 一人で抱え込んでしまう。
 弱いくせに。
 弱いくせに。
 
 けれどそうじゃない。
 本当に弱かったのは、自分のほうだと。
 気づくまでに随分かかってしまって。
 結局太一を一人で戦わせていたんだと。
 
「ヤマト?」
 黙って何かを堪えている表情に太一は気づいた。
 また、なにか無神経な事を言ってしまったのだろうか?
 
 けれど違う。
 その顔が泣き出しそうに見えて、太一は一瞬戸惑った。
 
 無意識の内に伸ばされた手がヤマトに掴まれ、引っ張られる。
 ヤマトの方に。
 
 吸い寄せられた身体がヤマトの腕に収まった。
 
 え?!
 
 何も言わぬまま、ただ抱き締めて。
 沈黙の中、口付けて。
 
 貪るように。
 
「ふっ・・・んっ・・・ちっ・・っ・・・!」
 彼の無意識の行動に、ただ驚きの声を上げることしか出来ない。
 こんな激しいキスをする、なんて。
 キス自体が、初めて、なのに。
 
 けれど不思議と嫌悪感よりも勝っていたのは羞恥心。
 恥ずかしい。
 
 何故かそんな想いが太一の中に存在していた。
 
「うっんっ・・・・やっま・・・!」
 
 あまりに深く貪りつづけた代償に口から零れたのは、透明な液体。
 唾液はどちらのものとも区別はつかず、あごを伝い、喉を通っていく。
 重力に逆らわず、流れ落ちる。
 
 無意識に始めた行為が、まさかこんな事を『したかった』のだとしたら。
 彼は壊れているのかもしれない。
 
 ヤマトが太一を押し倒せば痛がる彼の表情が見えたけれど、そんなのは構わない。
 
 白い包帯に唇を這わせ、傷ついた身体をそっと撫でる。
 
 薄い胸をヤマトは舐め尽くす。
 強く吸って、跡をつけて。
 
 『証』をつけていく。
 
 ずっと触れたかった。
 ずっとこうしたかった。
 強い、独占欲。
 
 スイッチが入ったヤマトに何を言ってもムダだと解っていたのだろうか?
 それとも煽られて、自らも『欲』に溺れ始めている?
 
 太一はただヤマトの愛撫に全て反応し、ヤマトが望む全てを与えた。
 
 
 
 
 何も知らない二人は、何も知る必要のないままに、身体を重ねて。
 お互いがお互いにとって、必要なモノだと、身体に刷り込んだ。
 
 それは『儀式』
 
 
 
 
 
 ふと目覚めて、我にかえった途端、青ざめたのは仕方がないだろう。
 今ヤマトが太一にした行為は、普通のものではない。
 ましてや、相手が自分のことを好きでいるかも分からない上に。
 同性に、抱かれたのだから。
 
      『や・・まとぉ・・・』
 
 けれど、最後の瞬間。
 確かに聞いた、太一の声音に。
 わずかな希望を抱いているのは、甘えがあるから?
 
「う・・ん・・?」
「たいち?」
 暫く、ぼーっとしたままの太一の様子を眺めて、覚醒を待つ。
 
 
「・・・」
 まさかヤマトと自分がこういう関係になるとは予想していなかったけれど。
 不快感というものは存在しなくて。
 それが不思議で。
 
 目覚めた時のヤマトの表情を見つけると、何だかおかしくさえ思えた。
 けれど笑うには未だ慣れない行為の代償の『痛み』に顔をしかめてしまい、心配したヤマトに声をかけられてしまう。
「だ・・大丈夫か?」
「・・・・・・・・・大丈ー夫、じゃない・・・」
 辛うじてそれだけ答えると、起き上がろうとしていた動きを止めて身体を丸めた。
「太一?!」
 その言葉に彼をちら、と見上げる。
「大丈夫、といいたいけど、暫く動けそうにないんだよ」
「ご・・め・−」
「謝るなよ」
「!?」
「謝られたら、俺がバカみたいだろ」
 
 何故ヤマトに身体を許してしまったのか、自分でもわからない。太一に取って抵抗する機会はいくらでもあった。
 けれど今謝られたら、身体を許した自分が情けなく思えるから。
 
「太一・・・」
 ヤマトは一方的に抱いたという意識を持っているけれど、それは彼の思い込み。
 
 鈍痛に苛まれた身体を引きずって彼を見上げた。
 
 そう、これは『合意』の行為。
 
「俺はお前が想っている以上に−・・・」
 その先の言葉は、彼の耳元へ届けた。
 
 だって言ってやらなきゃ、きっと伝わらない。
 
 次の瞬間顔を真っ赤にしたヤマトに、太一は満足そうに微笑んだ。
 
 
 
 
 皆の所に戻るのに、一人では歩くのが辛そうとヤマトは太一に肩を貸す。
 
 「・・にしても、お前って意外に・・えっちだったんだな・・・」
 
 戻る途中、ぼそりと言った一言に。
 
 ヤマトは気づいたのか気付かなかったのか。
 いや、きっと気付いてない。
「太一、今なんて・・・?」
「・・・何でもねぇよ」
 太一はさすがに2度同じ事は言う気になれなかった。
 
 
 
 
 ヤマトが怪訝な顔をしていたけれど。
 
 
 
 
 
 
 
 
The end.
 

 
香神さん、お待たせしました〜〜〜〜かなんち版「無印最終回」です。
(ハテ・・果たしてこれが最終回といえるシロモノかどうか・・わからないです。もう)
裏らしい???
裏入り。むずかしかったです。ごめんちゃー・・・
これでお許しを。
いいですか?これで・・・?
 

きゃーーーーっ!!(照)
ここここの、太一さんの笑顔vにやられまくってるヤマチョさんが……くくく(暗黒進化中)
 
かなんちさんのサイトでキリ番を踏んで書いてもらいました。
リクエストしたのは「無印最終回」……の裏(自爆)こ、コノオンナは……>ぢぶん
裏っていっときながらうちは裏ないので許可貰って表に上げさせていただきました。
 
えへ、かなんちさんありがとう〜〜〜v