『本当の気持ち』 from chapico 様

 
 
 
 
 
「ねぇ、エリス・・・銀河、まだ来ないの?」
 
「う〜ん、そろそろ来ると思うんだけど・・・」
 
 
日曜の午後、僕はエリスと一緒に銀河を待っていた。
 
 
「あのさ・・・やっぱりやめない?・・・この格好、足がスースーして気持ち悪くてさ。」
 
「何言ってるのよっ!!
北斗が自分で言い出した事なんだからっ、ちゃんと最後までやりなさいよねっ!」
 
 
(あ〜あ。つまんない事いわなきゃよかった・・・ハァ。)
 
 
僕の今している格好。
 
洋服は、ピンク色でひらひらフリルのワンピース。
頭には、肩下まであるウィッグに、大きなリボン。
顔には、うっすらとメイクまでして・・・・どこから見ても女の子だった。
 
自分でいうのも何だけど、今の僕はかなりの美少女だ。
エリス曰く、「私のお洋服なのに、どうして北斗の方が似合うのよ〜っっ!」
・・・だそうだし。
 
 
「え〜・・・僕、別に”女装したい”とは言ってないんだけど・・・?」
 
 
そうなんだよね。
僕は、別に女装がしたかった訳じゃなくって・・・
 
 
 
 
 
 
 
さかのぼる事、数日前。
 
 
僕達みんなで、CーDRiVEのライブにいった時の事だ。
 
 
 
「あ〜っっ。やっぱ、ユキちゃん最高〜っっ♪」
 
 
すでに、今日一日で何度も聞いた、このセリフ。
さすがに、いくら寛大な僕だって、いい加減イライラしてくるってもんだよね。
 
 
「・・・あっそ。フンッ!」
 
 
だから、思いっきりスネた顔をしてみたけど・・・
今の銀河には、”ユキちゃん”しか目に入らなくって、僕の事なんかどうでもいいって感じだった。
 
しかも、この後ガルファが現れて、襲われたのは”CーDRiVE”。
・・・銀河の必死な表情といったら、それはもう凄かったよ!(怒)
 
 
だから、ギアに戻った後、僕はエリスと2人でさっさと帰ってきちゃったんだ。
 
 
 
 
 
 
「もう、なんだよ銀河のヤツ・・・”ユキちゃん、ユキちゃん♪”ってさ!!
僕の目の前で、よく言えると思わないっ?」
 
 
僕達2人の関係を知ってるエリスに、昼間の不満をぶつける僕。
エリスには悪いけど、他に言える人もいないしさ・・・
 
 
「・・・へぇ〜。 北斗でも、嫉妬したりするんだ?」
 
「そりゃあ、するよ・・・だって、僕達って普通の恋人同士じゃないし。
あ〜あ・・・やっぱり、女の子の方がいいのかなぁ・・・銀河。」
 
 
いつもは、強引な僕。
だけど、それは・・・なんとか銀河を自分に引き止めておきたいから。
僕から離れてしまうのが・・・・恐いからなんだ。
 
 
 
 
そんなふうに考え込んでしまった僕に・・・
 
 
「そりゃあ、銀河だって男だもの。女の子の方がいいに決まってるじゃない!」
 
 
―― グサッ ――
 
 
・・・エリスの一言が突き刺さる。
 
 
「・・・そんな、ハッキリ言わなくたって。」
 
 
僕は、思わず恨めしい顔でエリスを見つめてしまった。
だけどエリスは、淡々と次の言葉を口にしていく。
 
 
「だけど・・・北斗は特別でしょ? もっと自信を持っていいんじゃない?」
 
「そうかなぁ・・・ハァ。・・・いいなぁ、エリスは女の子でさ。」
 
 
自分でもバカな事いってるなぁ、って思うけど・・・やっぱり言ってみたくなるんだよね。
 
 
「・・・何、バカな事言って・・・・ふ〜ん。北斗、女の子になってみたいんだ?」
 
 
ニヤリと口端をあげて微笑むエリス・・・
なんか、いや〜な予感が・・・
 
 
「・・・・え? 別に、そういう訳じゃないけど・・・たださ。」
 
「よしっ! 私にまかせなさ〜い♪
”CーDRiVE”になんか負けない美少女になって、銀河をメロメロにさせてみせるわ〜っっ!!」
 
 
握り拳を高々と掲げて、かなり興奮ぎみなエリス。
なんか、かなりヤル気になっちゃってるよ〜っっ。
 
 
「ちょ、ちょっと、エリス・・・落ち着いて・・・」
 
「さぁ、帰りに私の家に寄るのよ?さ、 行くわよ北斗っ!」
 
「エ、エリス〜・・・」
 
 
この後も、エリスの情熱は冷める事がなくって・・・今日の”女装”に至るってわけ。
 
 
 
 
 
 
 
(僕の言う事なんか、全然聞いてくれないんだもんな・・・)
 
 
 
「いちいちうるさいわねっ、男でしょっ!・・・・・あっ!!来たわよっ!!」
 
「ええぇっっ!!・・・ど、どうしよう。」
 
「大丈夫! ”CーDRiVE”なんかより、全然かわいいから♪
・・・・銀河ぁ〜っっ、こっちよっ!!」
 
 
そう言って、銀河に手を振るエリス。
 
 
「そういう事じゃなくって・・・・あわわわわ、来たっ!」
 
 
 
そうこうしている間にも、銀河が僕達の前にやってきてしまう。
 
 
「悪ぃ〜! 遅れちまったぜ・・・ハァ、ハァ・・・」
 
「もう、遅いわよ銀河っ!・・・ホントだらしないんだから。」
 
「悪かったって。・・・あれ、北斗は? 北斗も来るんじゃなかったのかよ。」
 
 
 
―― ドキン! ――
 
 
(うわぁ〜・・・どうしよう・・・ドキドキしてきた!)
 
僕は自分の名前を呼ばれただけで、動揺してしまう。
 
 
「あ、北斗は今日来れなくなったって、連絡あったわよ。」
 
「何ィ! オレ、聞いてねぇぞっ・・・もしかして、何かあったのか・・・?」
 
 
(あれ?・・・もしかして心配してくれてるのかな・・・)
 
 
なんて思ったのもつかの間。
 
 
「・・・でさ、こっちのカワイイ子は誰なんだよ?エリスっ、さっさと紹介しろよ〜。」
 
 
なんて、エリスに耳打ちしてるし。
 
(・・・う、うそっ。銀河ってば、ホントに僕の事解んないの!?)
 
 
・・・でも、なんとなくムッとするな。
 
 
「あっ、そうそう♪
この子は、私の友達で”薙 草子ちゃん(なぎ そうこ)”。私に会いに来てくれたんだけど・・・
ちょっと、銀河こっち来て!
・・・・(実は、急にギアから呼び出し掛かっちゃったのよ。だから、草子ちゃんの事頼むわね♪)」
 
「・・・・え!? オレがかよっ?」
 
「いいじゃない、こんなにカワイイ子と2人っきりでデートなんて、なかなかできないわよ!
・・・北斗には、黙っててあげるから♪・・・ね、お願いっ!」
 
「・・・・う〜。わかったよ・・・だけど、ホントに北斗には言うんじゃねえぞっ!!」
 
 
(ムカッ・・・僕には言えないってのっ?)
 
 
「ハイハイ。
草子ちゃん、それじゃあ私のかわりに、この人が街を 案内してくれるから。
・・・それじゃあ、お願いねえっっ♪」
 
 
それだけ言うと、エリスはあっという間に走り去ってしまった。
 
 
(・・・僕にどうしろっていうんだよ〜、エリス〜。)
 
 
 
銀河の方を見ると、赤い顔をしてなんだかブツブツ言ってるし。
 
 
「あ、あのさ・・・そういう訳だから、今日はよろしくな!
オレは、出雲 銀河。エリスの友達だから、気兼ねしないでなんでも言ってくれよな!」
 
 
銀河は、そんな風に笑顔で話し掛けてきた。
・・・なんだか顔がニヤニヤしているような気がするのは、僕の勘違い?
 
 
でも、こうなったら女の子になりきるしかないよね。
それで、銀河の本性をあばいてやるんだからっっ!
 
 
僕はそんな風に心を切り替えて、銀河へ極上の笑顔を向けながら答えた。
 
 
「・・・薙 草子です。今日一日、仲良くして下さいね。
あの、”銀河さん”・・・って呼んでもいい? 私の事は、”草子”って呼んでね。」
 
 
”銀河さん”・・・って呼んでたのは、 ”CーDRiVEのユキちゃん”。
なんだか、とってもクヤシかったから、僕もそう呼んでやるんだっ!
 
 
「あ、あああ、うん、もちろんいいよっ。・・・そそそそ、草子ちゃん!」
 
 
銀河はといえば・・・真っ赤な顔をしてどもってるし。
 
(・・・・やっぱり、面白くないっ!)
 
 
 
 
「銀河さん・・・今日はどこを案内してくれるの?
私、できればあそこに行ってみたいんだけど・・・」
 
 
そう言って、僕が指差したのは・・・”星見アミューズメントパーク”。
ギアの施設があるから、僕達以外の人とはあんまり行かないようにしてるんだけど・・・
 
 
銀河はどうするかな?
 
 
「え・・・。あ、あそこはちょっと・・・他の所じゃダメかな?」
 
 
(ふ〜ん。一応断ってるんだ・・・じゃあ。)
 
 
「ダメ? 面白いって、いろんな人に聞いてたから行ってみたかったんだけど・・・」
 
 
僕は、ちょっぴり残念そうな顔をして、銀河を見つめてみる。
すると、銀河はわかりやすいほどうろたえて・・・
 
 
「ううっ・・・・・わ、わかった! 行こう、草子ちゃん。
オレ、あそこは詳しいから、いっぱい案内してあげられるしさ。」
 
 
って言ったんだっ!
 
 
「・・・ホ、ホントっ?・・・嬉しいわっ・・・」
 
(・・・銀河のバカ〜!この、女好き〜っっ!!)
 
 
 
 
 
そんなこんなで、僕と銀河は”星見アミューズメントパーク”へと向かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「草子ちゃん。・・・ジャ〜ンっ♪ ここが、入り口だよ!
それから・・・ハイ。これがパンフレット!・・・どこか行きたそうなエリアとかある?
それとも、ジュースでも飲みながらゆっくり考える?」
 
「ありがとう、銀河さん・・・
それじゃあ、ちょっと喉が渇いちゃったからジュースが飲みたいな。」
 
「じゃあ、オレが買ってくるよ!何がいい?
・・・草子ちゃんは、そこに座って待っててっ!」
 
 
(・・・女の子には、随分気がきくじゃないか・・・)
 
 
 
銀河、僕にはそんな事してくれた事ないのに・・・
ジュースだって、なんだって、いっつも僕が買いに行ってるし・・・
 
 
 
「お待たせっ! どうぞ、草子ちゃん。」
 
「・・・ありがとう。 銀河さんって、とってもやさしいのね♪」
 
 
僕は、ほんの少しだけ厭味を込めてそう言ってみた。
 
 
「えっ!? そんな事ねえよっ。・・・ふ、普通だよっ。」
 
「そんなにやさしくしてたら、勘違いしちゃう女の子とかいるんじゃない?」
 
「いない、いないっ!・・・それにオレ、女の子にやさしくなんてできないし。」
 
 
ムカっ!
今更、そんな事言ってっっ!!
 
 
「そんな事ないわ。私には、とってもやさしいじゃない・・・」
 
「・・・う〜ん。だとしたら、草子ちゃんだけにだよっ。」
 
 
(・・・なっ!!)
 
 
「・・・えっ!? それって、どういう・・・?」
 
「飲みおわった? オレ捨ててくるねっ。」
 
 
問いただそうとしたのに、うまく逃げられた・・・そんな感じ。
 
 
だけどっ!
これは、大問題だよねっ。・・・必ず、問いただしてみせるっ!
 
 
 
 
そして僕は、そのチャンスを伺いつつ、その後も女の子のフリを続けていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「銀河さん・・・今日の記念にプリクラとらない?」
 
「・・・プリクラかぁ。」

「あ、でもそんなの見られたら困る人がいるんじゃないの?」
 
「う〜ん・・・大丈夫、大丈夫っ!さっ、撮ろうぜっ♪」
 
 
 
 
―― ガーン ――
 
 
 
 
うっ、ちょっと今のは・・・かなりキタかも。
僕って、その程度の相手なんだ・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
―― 3、2、1・・・カシャ! ――
 
 
 
 
 
「おっ、出てきた、出てきたっ♪・・・・見てよ草子ちゃん、よく撮れてるよっ!」
 
「・・・・・。」
 
(この表情って・・・・)
 
 
写真に写った銀河の顔は・・・・笑顔満面だった。
僕にだけ向けられるものだと思っていた・・・この笑顔。
 
 
よく考えてみれば、今日は何度かこの表情を見かけた気がする。
いつもは、僕・・・北斗にしか向けなれない表情なのに。
 
 
 
「・・・・どうしたの、草子ちゃん? 写真、気にいらなかったのか?」
 
 
俯いてしまった僕に、銀河が心配そうに声をかける。
 
 
「銀河さん・・・私と一緒にいて、楽しい?」
 
「どうしたんだよ、突然?・・・あ、もしかして、オレと2人じゃやっぱつまんなかった?」
 
「ううん。そうじゃなくて・・・銀河さん、私にとってもやさしいから・・・
エリスに聞いたんだけど、恋人いるんでしょ? なんか、その人に悪いなぁって・・・」
 
(銀河は・・・僕に悪いと思わないの・・・?)
 
僕は、自分勝手なのかもしれない・・・
自分でこんな事を仕組んだくせに、銀河が他の子にやさしくしてるのは許せないなんて・・・
 
 
「オレの恋人に悪い・・・?
う〜ん、まぁ、そうなんだけどさ・・・だけど、草子ちゃんといると楽しいよ。」
 
「・・・・。」
 
(銀河〜っっ!・・・浮気もの〜っっ!!)
 
 
「草子ちゃんといると・・・オレの恋人と一緒にいるような気がしてさ、へへっ。
似てるんだよね、顔とかだけじゃなくって・・・一緒にいるときの空気とかも。
だから、ついあいつと一緒にいるつもりになっちゃって・・・」
 
「銀河、さん・・・・」
 
「それに、オレの恋人って何でもできちゃうヤツでさ、
いっつもオレが迷惑ばっかかけてるから、たまにはオレが面倒みてやりたいなぁと思ってさ。
でもそれって、草子ちゃんにも悪ぃよな・・・ゴメンな。」
 
 
銀河・・・
そんな風に想っててくれたんだ。
 
 
「ううん・・・そんな事ない。だけど、銀河さんの恋人も幸せものね・・・」
 
「いや、オレが幸せものなんだよっ!
・・・なんたって、オレには勿体無いくらいいい奴なんだからさっ。」
 
 
そう言って、無邪気に笑う銀河は、とっても可愛かった・・・
そして僕は、銀河のそんなセリフが嬉しくって、こんな事を口にしてみた。
 
 
「・・・あ〜あ、失恋しちゃったな。」
 
「・・・・・っっ!? そ、草子ちゃんっ?/////」
 
 
”草子ちゃん”の爆弾発言に、銀河の顔はこれ以上ないほど赤く染まる。
 
 
「ねぇ、もう一枚だけプリクラ撮ってもいいかな?
私の記念にするから・・・ね、お願い。」
 
「・・・・う、わかったよ。
その顔でお願いされると、なんか断れないんだよなあ・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
そして・・・
 
 
 
 
―― 3、2、1・・・チュッ! ――
 
 
 
僕は、カメラのシャッターと同時に銀河へキスをした。
・・・もちろん唇に♪
 
 
 
「・・・・そ、そ、そ、草子ちゃんっ? 今、何かしたっ・・・?」
 
 
銀河はと言えば・・・
すっかり固まってしまって動けないでいる。
 
 
「・・・クス。別に、何もしてないわよ♪
あ、シール出てきた!・・・・それじゃあ、銀河さん・・・今日はありがとう、さようならっ!」
 
 
そして、僕はシールを持ってその場を後にした。
 
 
 
 
 
 
もちろん、そのシールは僕の宝物。
 
・・・いろいろ活用のしがいがありそうだよね♪

……で、何に活用したの、そのシール?(笑)

イラストのお返しということでいただきました。
ええと、これ、北銀で……いいんですよね?>chapicoさん
「どーして北斗の方が似合うのよ〜っ」に思わず笑。確かに……似合うだろうなあ。
女好き女好き言われまくってる銀ちゃんでしたが、女好きかどうかはともかく、面食いなのは確かでしょうね。ユキちゃんって、C−DRiVEの中で一番可愛いもの。

chapicoさん、なんかまたひとつ弱みを握られたよーな気がする銀ちゃんをありがとう(爆)