『はじまり。』
 
 
 
 あのときも……そしていまも。
 すべては、あなたから。
 
 
 
「……そういえば太一さん」
 時は放課後。デジタルワールドに出かけていく後輩たちを見送った後の、ゲート見張り番まっ最中。
 アグモンはどうしてるかなあ、なんて思いつつ、窓から空を眺めていた太一の背中に、ふと投げかけられた声。
「なんだ、光子郎?」
 振り向いてみると、声の主は何やらキーボードを叩いている。
 ……話し掛けたときぐらい、こっち向けって。
 太一が内心そう思った瞬間、光子郎の視線がこちらに向いた。
「どうかしたんですか?」
「……別に」
 なんか微妙に固まった表情の太一を発見して、光子郎が首をかしげる。
 それから、真面目な顔になって。
「ひとつ、確認したいことがあるんですけれど」
「だから、何だよって?」
 つられて太一も表情を引き締める。
「以前、言ってましたよね。大輔くんたちのD−3は、太一さんがデジメンタルから出したって」
「ああ、そうだけど……」
 デジモンたちに導かれてたどり着いた洞窟。そこにぽつんと置かれていた、卵のようなもの───デジメンタル。
 持ち上げることはできなかったけれど、触れた途端に飛び出した3つの光。
 その後、駆けつけてきた大輔が手にしていた見慣れないデジヴァイスを見た瞬間、あの光の正体がこれなんだとわかった。
 ……どうしてわかるのかは、わからなかったけれど。
「何だよ、今更そんなこと確認する必要があるのか?」
 けげんそうな顔になった太一に構わず、光子郎はPCのモニターの向きを変えた。
「この、今あるデジタルゲートですが……」
 光子郎の指がモニターに映し出されたゲートを指す。
「太一さんもご存知のとおり、僕たちが持っているデジヴァイスでは、開かれたゲートを通ることはできても、ゲートを開くことはできません」
 微かな落胆をにじませた光子郎の声。太一は黙ってうなずいた。
 大輔たちを羨んでいるわけじゃないけれど。ただ、パートナーが呼んでいるとき、すぐに駆けつけてやれないことが、悔しい。
 思わず握り締められた、手。
 ちらりとそれを見やってから、光子郎は再び口を開く。
「なのにあの日、太一さんはデジタルワールドにいた……。いったい、どうやってデジタルワールドに行ったんですか?」
 太一の目が見開かれた。
 
 ───鍵のかかった扉。鍵は扉の向こう。鍵を持っているのはだあれ?
 
「太一さん?」
 反応のない太一を、光子郎がいぶかしげに覗きこむ。
 彼より少しだけ高い位置にある顔は、まったくの無表情だった。
「どうしたんですか、太一さん?」
 驚いた光子郎が腕を掴む。その途端、ぱちりと大きな目がまばたきをした。
「俺、なんかしたか?」
 不思議そうに聞かれて、慌てて手を離す。
「……いいえ、何でもありません。すみません、痛かったですか?」
「いや、別に平気だけど……」
 きょとんと首をかしげたその顔は、いつも通りの太一で。
 ───気のせいだったんだろうか。
「本当になんでもないんです。それより、質問に答えていただけませんか、太一さん」
「ああ、それなんだけどさ……」
 太一がふっと視線を逸らした。数秒間の沈黙。
「……覚えてねえ、みたいなんだよな、俺……」
 つられて外の木なんぞを眺めていた光子郎が慌てて視線を戻すと、太一は困ったように笑った。
「あはは、自分でもまいっちゃうぜ。俺、そんなに記憶力悪かったかなあ。どうりで成績悪いはずだぜ」
「何言ってるんです。太一さん、頭良いじゃないですか。……ただ勉強に使ってないだけで」
「……うるせえ」
 赤くなった頬を隠すように回れ右した太一。
 ひとつ年上の彼の、そんな子供っぽい動作に苦笑しつつ、光子郎は新たな疑問が心に湧き上がってくるのを感じていた。
 
 
 あの夏の日も。早すぎた出会いのときも。……そして、新たな出会いも。
 すべては、あなたから。
 鍵をもっているのは、だあれ?
 
 ───あなたは、だあれ?
 
 
 
fin.

初デジアド小説。の割に、ドリーム設定かっ飛ばしてますな(自爆)
 
中身としては、「02」の1話を見終わった後、香神がまっさきに思ったことです。
見てない部分で種明かしされてたらどうしよう(汗)
太一さんについては、わからなくて、でも気になって仕方ないことがいっぱいあるんですよね。紋章のこととか。……そのうち小説かキャラデータに書きます。
 
なんか、太一さんと光子郎しかいないっつーか、見ようによっては光太に見えなくもないっていうか……(自分でゆーな>俺。)
そーゆー方向だと、私は多分ヤマ太なんだろうとは思いますが(爆)、こういうこと疑問に思うのって光子郎だし……。
 
なんか寝られなくなっちゃって書いた代物。誤字脱字が怖い。あったら指摘してください(切実)

2001.2.5