『あさになったら。』 |
なんだよ。 なんだっていうんだよ。 ……畜生。 玄関の明かりはついていた。 「銀! 遅くなったら電話しろって毎回毎回アレほど言ってるだろうがぁ!」 のろのろとドアを開けた途端、飛んでくる母ちゃんの怒鳴り声。 いつもだったら、即防御体勢に入るトコロだけど……。 「銀?」 何も言わず突っ立ったままのオレを見て、母ちゃんが振り上げた手を下げた。 「何か……あったのかい?」 「…………」 そんなコト聞かれても、頭ん中ぐちゃぐちゃで。 靴の先にある玄関のタイルがじわじわ色を変えていく。上着のすそからも、ぽたぽたしずくが落ちてきて。 はあっとため息をついて、母ちゃんが洗面所へ歩いて行った。 「……とにかく中へ入んなさい、銀。お風呂沸いてるから。そんなずぶぬれのまんまじゃあ風邪引くでしょうが」 ばさっと被せられたのはバスタオル。 「銀河」 「……うん……」 やっと声が出る。 閉めかけたドアの向こうにちらりと見えた北斗の家は……真っ暗だった。 なぜ? なんで? どうして? ―――回っているのは、そんな言葉ばっかりで。 寝るって言ったもんの、全然眠れなくて。 そろっと降りていったら、母ちゃんがいた。 あっためてくれたシチューを食べながら、またぐるぐると考える。 さっき、母ちゃんがくれた言葉。 オレにとって、正しいこと。 今までは、電童に乗って戦うことだった。 でも、今は? わかんねえ。全然わかんねえ。わかんねえけど……レオたちはアイツの方へ行っちまった。 ってことは、ベガさんの言ってたことはウソだったのか? 今までのオレたちは、全部間違いだったのか? ……ああもう、ホントにわかんねえよ。 北斗……。 北斗に聞いたら、わかんのかな……? ―――そこまで考えて、気がついた。 今。 オレはこうやってシチュー食ってる。 母ちゃんがいてくれて……オレの言ってることに答えてくれてる。 でも、でも、北斗は……? 外を見る。 北斗の家……あいかわらず、真っ暗のままで。 母ちゃんのシチュー……うまいよな。 こんな、もう何が何だかわかんなくって、怒りたいんだか泣きたいんだか自分で自分がわかんねえようなときでも、母ちゃんのシチューはやっぱりうまい。 ベガさん……北斗の母ちゃんのシチューも、きっとうまいんだろうな。北斗にとっては……。 「母ちゃん……」 台所を覗いたら、母ちゃんはコンロの前でぼーっとしていた。 でも、声をかけたらすぐ振り返ってくれて。 「なんだい?」 「シチュー……まだあるか?」 「あるけど……なに、おかわりかい?」 「そうじゃなくて……北斗ん家に持ってってやりたいんだけど……」 「北斗くんの家に?」 「うん……北斗んとこ、今晩母ちゃんいねえんだ……だから……」 なんでいないのかまでは言えなくて、だんだん声が小さくなる。 かちん、と音を立てて、母ちゃんが火を止めた。 「わかった。でも、明日の朝にしときな。今日はもう遅いから」 「うん……」 「そうと決まったら、ほら、もう寝な! ちゃんと歯みがくんだよ!」 がしがしと頭を撫でられた。 はっきし言って、痛い。 でも、痛いのが……妙に嬉しかった。 朝になったら。 北斗にうちの母ちゃんのシチュー、食わせに行こう。 そんで、お返しに北斗の母ちゃんのシチュー、絶対食わせてもらうんだ。 そのためには、そのためには……。 |
fin. |
24話ネタ。 冒頭がとにかく痛くてねえ……反面、母ちゃんに言葉もらってからの銀ちゃんがめちゃ男前で。 この年頃の男の子には、お母さんの存在ってやっぱり大きいんだろうなあ。 なのに、北斗のお母さんは……。 突っ込めない突っ込めないといいつつ、こんな断片を書いてるワタクシ。 ホントはもう1パターンあるんですが、そっちは5月のスーパー合わせの本にしよっかなと。だってすっげー痛くなっちゃってさー(汗) |
2001.3.27 |