太一はふと目を覚ました。
 まず目に入ったのは、降ってきそうな星空。
「──────…」
 
 ゆっくりと、起き上がる。
 
 右隣にはアグモン、左隣にはヒカリが眠っている。
 二人を起こさないように立ち上がり、そっと少し離れた泉へと歩み寄った。
 風は冷たくない。
 天気もいい。
 …そう悪い夜ではない。
 
 泉に指先を浸し、こんな風に目覚めた夜が昔もあったなと思い出した。
 
 それは昔と言うほど昔でもない。
 デジタルワールドを旅した時間の長さを考えれば、むしろつい最近と言ってもいい。
 
「………」
 
 太一は泉から手を上げ、ぼんやりと濡れた指先を見た。
 あの夜、そしてあの日ヤマトの手を握ったのはこちらの手だった。
 
 今。
 眠る仲間の中に、ヤマトはいない。
 
(───大丈夫)
 
 太一はぐっと手を握った。
 ぽたぽたと雫が落ちる。
 
(───大丈夫だ)
 
 あの夜、ヤマトもそれを否定しなかった。
 …同じように大丈夫だと、言った。
 
(逃げない)
 
 ヤマトだって逃げ出したのではない。
 …戦いに行ったのだ。彼は、彼なりの方法で。
 
(───ああ、怖いさ。
 でも…逃げない)
 
 握り合った手のひらの感触を、今も忘れていない。
 だから、大丈夫。
 
(俺が逃げないように…しっかり、つかまえてろよ)
 
 祈るようにそう思った。
 ───静かな、夜だった。
 
 
 
 
 ハーモニカを吹いていたヤマトが、ふいにそれを止めた。
 聞き入っていたガブモンが顔を上げる。
「…どうしたの? ヤマト」
「……いや」
 なんでもない、と首を振った。
 
 そう、きっと気のせいだ。
 
 手のひらを、見下ろす。
 
 太一が今更。
 …自分の手を、握り締めた気がしたなんて。
 
 それでもきつく手のひらを握り、怖いほど美しい星空を見上げた。
 
(…太一)
 
 今更名前を呼ぶのは虫が良すぎる。
 けれど、せめて声にださずささやくことだけは。
 
(たいち──────)
 
 
 
 
 手のひらが、熱い。
 その理由が、今はわからないけど。
 
 

新哉さんがおまけをつけてくれてました。嬉しいv
ご本人のサイトにアップされるまでは、こっそりと、うふふ。
新哉さん、かさねがさねありがとうございましたv