『サマーメモリー』
 
 
 
Act.1 『僕らの手をひいてきたもの。』
 
 
 
 ───これはどうしたことだろう。
 その光景を眺めている彼の頭をぐるぐる回っているのは、そんな言葉だった。
 
 
 集まろう、と声をかけられて、不運な自分には珍しく、模試も塾も重なってなくて。
 ぞろぞろ歩く一行をぐるりと眺めやる。
 3年前からの、大切な仲間たち。あいにくひとり欠けているとはいえ、こうやってみんな揃っているところを見るのは、本当に久しぶりだ。
 それから、後輩。新しく選ばれた子供たち。当たり前のようにパートナーを連れている姿に、ちょっとだけうらやましさを感じたりもして。
 そして。
 
「ひ、ヒカリちゃん……タケル……」
「何なに? どうしたの、あれ?」
「僕にわかるわけないでしょう……」
 斜め前を団子になって歩く後輩たちの声が聞こえる。……驚いている。
 無理もない。彼らがずっと小さい頃を知っている自分だって、びっくりしているのだ。
 今の、歳よりずっと大人びた様子しか知らない後輩たちにしてみれば、ふたりのあんな表情を見るのは初めてなんだろう。
 
 3年前に選ばれて、今また選ばれた、ふたり。
 
 そのふたりは、総勢10人+αの大集団の一番前を、楽しそうに歩いていた。
 ……正確には。
 先頭を歩いていた人物を、両側から思いきり抱きついた状態で引きずっている。
 ───左側から、ヒカリ。右腕には、タケル。 
 かなり歩きにくそうだが、そんなことは問題ではないらしい。ふたりとも満面の笑みを浮かべている。
 べったりくっつかれている方はといえば、苦笑しつつも好きにさせているようである。
 
「……何か、あったのかい?」
「さあ……知らないですけど……」
 とうとう口に出してしまった疑問。
 ちょうど隣を歩いていた、愛情の紋章を持つ少女に向けてみると、とまどったような、けれど彼女らしい優しい微笑が返ってきた。
「ヤマト……は知ってるわけないな、あの様子じゃ」
 どんな様子かというと。
 なんか危なっかしい感じでふらふらと最後尾を歩いている。
 自分と同じ疑問を抱いたらしい彼は、当事者に直接確かめようとして……ついさっき、見事に撃墜されてきたのだ。
 ここに森とか闇の洞窟とかがなくて良かったと思う。かのパートナーがいないこの状況でそんなところがあったら、入っていったっきり二度と出てこなさそうだ。
 同じことを考えたんだろう。後ろをちらっと見た彼女がちいさく笑った。
「僕も知りませんよ」
 それじゃあと残る一人に目を向けた途端、即答された。
 『知りたがり』の彼が、『知らない』ことをあっさり告げるのは珍しい。
「でも」
 そんなことを思っていたら、肩から下げたバッグの紐を架け直して、彼が微笑んだ。
 ふたつめの微笑み。
「……なんだか、懐かしいですね」
 
 
 あの夏の日々。
 いつでも自分たちの先頭を、彼は歩いていて。
 その背中に、腕に、まとわりついていた、ちいさな手と手。
 いまと同じように、ちょっと困った様子を見せながら、でも決して振り払うことはしなかった、後ろ姿。

 目にするたびに、無条件で安心できた光景。
 何があったって、大丈夫だと思った、あの頃。
 
 後になって気づいたことがある。自分がもうすこし大きくなってようやく、見えたことがある。
 そして改めて、感じたこと。
 
 
 ―――あの背中にひかれて、僕たちはここまでやってきたんだ。
 
 
「……そうか、そうだね」
 なんだか、それで全部わかったような気がして。
 
 
 ───そして、丈は、みっつめの微笑みを浮かべた。
 
 
 

Act.1 Finished.

 

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太一さん賛美小説。いや、まじで。
 
デジアド歴めっちゃ後発の身で今更かもしれないですけど、なんかすごく書きたかった話。
当初の予定より長くなってます。一応、Act.4まで予定。

2001.2.17